家をつくり続ける

「タモ材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン」

横須賀 O様

design:Oさん
planning:daisuke imai
producer:tatsuya suzuki
painting:Oさん

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

キッチン全体の様子。この空間全体の雰囲気と言い、Oさんが塗った色の質感と言い、懐かしく温かみのある印象です。

「実はね、葉山のNさんからイマイさんのキッチンのお話を聞いて、ぜひお願いしたいなって思っていたのです。」とOさん。
Nさんとは、「アフタヌーンソング」のNさんでした。なるほど、OさんもNさんのような雰囲気をお持ちだ。
「Nさんのおうちって広い土間がありましたでしょ。そこにいろいろな作家さんを呼んだりして、お料理の先生を呼んだりして、看板はないけれどちょっとお店のような感じになっているんですよ。私もそこに良く遊びに行かせてもらっていて、それでイマイさんを知ったのです。」
「そうでしたか。」

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

「冷蔵庫のほうに水が流れちゃったり、物が落ちちゃったりするといけないので。」ということで左の側板は、ステンレスカウンターよりも少し立ち上げています。

そのNさんのキッチンはなかなかどうして思い出深いのでした。お知り合いの銅作家さんが作ったハンドルを組み込んだり、Nさんが暮らしはじめて半年くらい経った頃かな、バックパネルの接ぎ板が大きく動いてしまって、あまり逃げを作っていなかったために、シンクの上の小さなカウンターがグイッと持ち上がってしまってなかなか修正することが難しかったり、ご主人が日曜大工で作ったというバルコニーのウッドデッキが本格的でとても良い印象だったり。いろいろと思い出深く、勉強になったお仕事だったのでした。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

シンクと水栓の様子。

「そうでしたか。それなら私たちのキッチンのことを何となく分かってくださっていることと思いますので・・。」と、そのような感じで打ち合わせが始まりました。
頂いたスケッチを元にいろいろとお話を膨らませていきますが、Oさんの思い描くキッチンは至ってシンプル。Nさんと同じようです。
どこか懐かしい昔の台所。そんな雰囲気にまとまりつつありました。
そうしていくつかのプランの変更を重ねて、形がおおよそまとまりました。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

今回特別に作った水切りプレート。いつもの形だと、シンクに段をつけて、水切りプレートを置いた時に、プレートがカウンタートップとフラットにするような納まりにするのですが、今回O参はシンクの段につく水あかがイヤなので、シンクはストンとシンプルにして、水切りプレートは普段は立てておくので、出っ張りが少ないような薄いデザインにしてほしいということで、このような形となりました。

「諸々了解いたしました。ご丁寧に説明してくださって、ありがとうございます。また、納期の件も了解いたしました。
秋には住めればいいなあ」という漠然とした希望は伝えてありますが、実はまだリフォームの具体的な日程が出ていません。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。
8/3(月)に工務店さんと打ち合わせをしますので、そこでだいたいのスケジュール感がわかると思われますが、ひとまず、キッチンに関してはできることから進めていただきたいです。・・・こんな感じのお返事でも大丈夫でしょうか??」

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

引き出しの様子、その1。引き出しもワトコオイルの「ダークウォールナット」色で塗装をしています。

ご新居は新築ではなく、今の住まいを改装するということで、また今住んでいるところは今しばらくいられるようですので、どこかのんびりとお話が進んでいきます。
それでもプランはほぼまとまって、工事もようやく始まりそうという頃になりましたので、まずはその家を見ておこうということでお伺いすることに。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

引き出しの様子、その2。

住所を辿って走っていくと、懐かしい場所でした。
以前、キッチンを作らせて頂いた「みどりをかりる」のSさんのおうちの近くから山を登った中腹あたりがOさんの家がある場所。Sさんもとても雰囲気のある方でとても雰囲気のある空間だったなあ。
みんなどこかでつながっているのかな。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

引き出しの様子、その3。

ここを進んでいいのっていう道をゆっくりと登っていくと、数件の家がまとまった一角があって、そのてっぺんにOさんが手に入れた家がありました。
家というか、山小屋のような(変な言い方ですみません・・。)雰囲気のある家です。
「イマイさん、いらっしゃい。」と、Oさんが玄関を開けてくださいました。
「ちょうど雨が上がりましたね。」

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

扉を開けた中はこのような感じ。中まで塗るとやはりどこか懐かしい感じ。でも、しばらくは風通しを良くしておかないと、ワトコオイルの甘い匂いが残ってしまいますのでご注意を。

先ほど、ボトボトと車のガラスをたたいていた雨粒はもう上がって、代わりに山の木々の間からうっすら煙のように蒸気が立ち上って、あたりがゆっくりとモワッとしてきました。
薄暗い工事前の室内にある大きな開口。ここから向かいの山が大きくリビングに映り込んで、清々しい色と少しモワッとする風が部屋の中に入ってくる、そんな素敵な家でした。
この景色がね、今でもはっきりと覚えていてとても美しいのでした。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

ガスコンロは、ハーマンのプラスドゥ。

「ここはね、築40年くらい経つ家で、もう傾いてしまっているのですよ。建て替えも考えましたが、この家のが素敵でしたのでジャッキアップして、床下から補強して中を最小限きれい工事して住むことにしたのです。」
なるほど。
「そしてここがキッチンになります。」
昔のシステムキッチンがついたままになっていてとても趣がある場所。ここに私たちのキッチンが入るとどんな感じになるだろう。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

コンロの下も開き扉。このスペースは良く引き出しにしたり、金属でできたスライドワイヤーシェルフを組み込む方が多いのですが、Oさんはシンプルに扉。「入れるものは、大きなお鍋とかフライパンとかなので、それほど奥までしまい込んだりすることがないから、扉で大丈夫です。」

「このキッチンを取ってしまって、このサイズよりも少し広くしたので、使いやすくなるかな。楽しみです。」
さて、いよいよキッチン製作の始まりです。

ところで、ここまで奥様と主に打ち合わせをしてきましたが、ご主人もとても魅力的なお人です。
プロのカメラマンでありながらも、Nさんのご主人と同じように日曜大工が大好き。
何かを生み出すことが好きな人って、どんなものでも作ることが好きなのですね。
その話はまたあとで。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

調味料用の引き出しはギッシリ。

さて、いよいよ解体が始まり、ジャッキアップが終わって、内装工事が始まってキッチンの設置場所が見られるようになった頃、あらためて現場にお邪魔させて頂きました。
すると、どこかで見たような・・、似ている人が・・。と思って、室内に入ったところで、不意に「イマイさん、荻野です。」と声を掛けられました。
ああ、荻野さんだ。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

ボトル収納部分もギッシリ。幅75cmタイプのガスコンロを組み込む場合、調味料とボトルの引き出しはほぼこのサイズになります。もちろん、希望があれば自由にサイズは変えられますよ。でも、これ以上小さくするとコンロが壁に寄りすぎてしまうので、小さくはできないのですが、大きくはできます。

数年前にやはり私たちのウェブサイトを見て家具をご依頼くださったハウスビルダーさんでした。今回はこのOさんの現場の手伝いということで、ここを仕切っていらっしゃったのです。
うれしいです、このような初めての土地でお会いできるなんて。荻野さんが監督さんなら、お話はスムーズです。
私たちはいつもお客様から直接キッチンのご依頼を頂くことが多いのですが、今までで同じハウスビルダーさんの現場になったことって数えるくらいしかなく、ほとんどがいつも初めてお会いするビルダーさんなのです。
その都度現場のルールのようなものが違っていて、現場の方々は気持ちの良い人が多いのですが、自分はそこではいつも新参者なのでなかなか気持ちを落ち着けて仕事ができなかったりしたこともありました。
だから、こうして知っている人のもとで仕事ができることがなんだかうれしくて、どこかでみんなつながっているのだなあなんて気持ちが軽くなったのでした。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

レンジフードも懐かしい形。

そのようなわけで思い通りに大工さんの工事が終わって、私たちのキッチンもすんなり取付が完了して無事に工事は終わったのでした。
ありがとうございました、荻野さん。また一緒にお仕事させて頂ける日を楽しみにしています。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

つなぎを着て、塗装を頑張る奥様。通常は、扉や引き出しをこのように取り外して、全体を紙ヤスリで磨いて塗装を始めます。このヤスリ掛けがなかなか大変で、翌日体が痛いです・・、というお客様も。(笑)

そして、お引越しされる少し前にあらためてきれいになったOさんのご新居にお伺いしました。
今回はキッチンの塗装をOさんご自身でされるということで、その塗り方を伝えに来たのです。
今回は、タモ材でキッチンを作らせてもらったのですが、タモはどちらかというと明るい黄褐色の樹種。Oさんのイメージはもう少し色が濃い感じ。でもブラックウォールナットとは少し違うし、コストも高いので、今回はタモを使ってそれに色をつけて仕上げることにしたのでした。
オイル塗装をお客様ご自身で行なうことって、最近は良く取り入れる方法なのですが、着色料の入ったオイルを塗るというお客様は初めてです。でも、オイルだからそれほどシミにはならないから大丈夫かな・・。
そう思っていたのですが、やはり初めての経験、Oさんけっこう大変そうで、なかなかコツをつかめずにいましたが、「大丈夫、イマイさん。頑張りますから!」と言って、着色料の入った粘度の高いオイルを一生懸命延ばして塗っては擦り込むように拭いていきます。
今回のOさんのキッチンですが、通常キッチンのなかって掃除がしやすいように、そして塗装しなくて済むように、そしてコストを抑えるために化粧板(もともとメーカーで塗装された状態の板)を使うことが多いのですが、Oさんは内部もタモが良いっていうことで、内側もタモで作らせて頂いたので、今回は外側だけではなく、内側も塗る必要があったのです。
塗装で大変なのは、出っ張っている部分を塗ることよりも引っ込んでいる角を塗ることです。
だから、外側よりも内側を塗るほうが大変なのです。
頑張ってください、Oさん。

中古戸建を改装して、こじんまりした小屋のような温かなキッチンに

この吊戸棚と下駄箱は、ワークショップでご主人とコバヤシ君が作ったもの。下駄箱は天地、側板が止でつながっているというなかなか日曜大工にはない高度な加工。(笑)ハンドルは、アンティークを扱うお店で手に入れた独特の表情で、これがとても良いのでした。

さて、お話は変わりまして、私たちは毎年の暮れにこの小さな工房の上にある小さなショールームで、「クレミル」という名前の展示会を開いております。顔なじみの作家さんの作品を持ち寄ってここを訪れる皆さんに見て頂いたり、私たちのキッチンがご縁で始まったパンを作る教室を開いているお客様からその美味しいパンを分けて頂いて、ここでちょっとしたカフェのようなものを開いてみたり。その中で、ワークショップも開いたのです。
そして、そこに参加してくださったのは、Oさんご家族。
お嬢さんは「端材で作る木のおうち」を選んで、奥様は「あまった板材で作る木のお皿」に参加して、ご主人は、「1日自由に木工機械を使ってみよう」に参加してくださったのでした。
そして、うちのスタッフであるコバヤシ君がその日はほぼご主人の専属の先生ようになり、なんと一日で大きな開き扉のある下駄箱と、引き戸のある吊戸棚を作ってしまったのです。
これは日曜大工以上の成果ですね。
ご主人も、「いやあイマイさん、ありがとうございます。本当に楽しかったです。これにもよろしくとお伝えください。」ととても晴れ晴れしたお顔でそうおっしゃっておりました。
「今度イマイさんがいらして下さる時にはこの家具をきちんと取り付けておきますので、ぜひキッチンだけではなくこちらも見ていってくださいね。」

あの時そうおっしゃっていたとおり、お邪魔させて頂いた時に、目に飛び込んできたのがその存在感のある玄関収納でした。
来るたびに何かが新しい、そんな印象を受けるのがOさんの家です。

「この前ノコギリで怪我をしてしまって。趣味のせいで仕事がしづらくなるなんて・・。(笑)」と苦笑いしながら、痛そうな手を広げてみせてくれたOさん。

「でも、楽しい!」

お二人の口から出る言葉は、この一言。
家をつくるのって楽しいって、Oさんにあらためて教えられたのでした。

キッチン仕上
天板 ステンレスヘアライン
扉・前板 タモ板目突板練り付け
本体外側 タモ板目突板練り付け
本体内側 タモ板目突板練り付け
塗装 ワトコオイル「ダークウォールナット」(Oさんが施工)

タモのステンレスヘアラインのキッチン

価格:910,000円(制作費、塗装費は施主様施工、設備機器は別途)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は100,000円から)

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