お母さんの台所
「ナラ板目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」
越谷O様
design:wataru ytomiya/Oさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:haraki tosou
私たちがキッチンを作ることを仕事にしてまだ間もない頃、埼玉県のふじみ野というここからとても遠いところにご新居を建てるというKさんから相談を頂いたことがありました。
「楽しんで、楽しんで」のKさんです。
今でこそ、キッチンとはどんなものかということがある程度は分かるようになりましたが、あの頃はまだ手探りでどうやったらスムーズにキッチンを作っていくことができるか、家具と違っていろいろな業者さんとどう関わってゆけば良いか、機器類に詳しくなるにはどうしたら良いかって、本当にいろいろ分からないことだらけでした。だから、頼んでくださったお客様にはとても感謝しておりますし、工事に関わってくださって協力してくださった業者さんにも本当に感謝しております。
みんな良い人ばかりで、物分かりのない私たちにきちんと教えてくださって。だからこうして今があるのだなあ、としみじみ思うのです。
そのKさんのお仕事をさせて頂いた時の施工会社さんが、当時トラストホームという名前でお仕事をされていた今の無添加住宅さんだったのです。
その時に、設計士さんとして私たちと現場に間に入ってくださったのが建築士の富谷さん。
初めてお会いした時からとても魅力的なキャラクターの方で、何の分け隔てもなくお話ができる方で、素敵だなあってその時から思っていたのでした。
あの時が2008年でしたのでもう8年も前のお話です。8年間ずっとすてきだなって思っていたのですよ。トミヤさん。(笑)
そのような出会いがあった7年後に偶然無添加さんで家を建てるSさんのキッチンの製作に携わらせて頂ける機会があったのです。
その時は、たしかお会いできなかったのですが、お電話で、「いやあ、懐かしいですね。」と言いながらまるで古い友人に再開したかのようにお話しさせて頂いたのでした。
そして、その時に少しだけご相談を頂いていたのです。
「今度知人の水回りの改装を行ないたいと思っているのですが、ぜひイマイさんに、ぜひイマイさんにお願いしたいのです!」と。
それはうれしいお話です。いつでも呼んでくださいねって、ご挨拶したら、すぐに呼んでくれました。(笑)
それじゃあ、トミヤさんに会いに行こうって降りた駅が北越谷。遠くまでやってきました。
何となくトミヤさんの面影は8年前の姿が焼き付いているのですが、その姿よりも声の大きさで「あぁ、トミヤさんだ。」と分かったのでした。近くでお話ししていると耳が痛いくらい!
「じつはね、イマイさん。私が若い時からお世話になっている美容院さんなんです。」とOさんを紹介してくださいました。
1階が美容院になっていて、2階からが住まいになっています。その2階にあるキッチンがとても不思議なキッチンだったのです。
「もうずっと使い続けているから慣れちゃったけれど、ここを建てた当時にキッチンはシンプルな有り合わせのもので良いです、って工務店さんに頼んだら、本当にシンプルな厨房用のキッチンを組み込んでしまって。それをどうにか継ぎ足し継ぎ足しで工夫して使ってきたのですが、そろそろ傷んできたので、それなら設計をやっているトミヤ君にお願いしようって思ったのよ。」
なるほど。とても面白いキッチンです。
ここに住むOさんご自身はもう私の両親と同じ年くらいのお母様。お嬢さんが私たちと同じ世代。
だから、話がしやすいわけです。特にトミヤさんがあいだに入ってくださっているので、お話はトントンと進みます。
まずは概要をお聞きできたので、この日の課題を持ち帰ってキッチンのプランを作成し、あらためてお伺いします。
そして、またトミヤさんにも同席頂いて。
で、今回は大きな内装工事はナシということで、ほぼキッチンの交換のみということでしたので、トミヤさんが横で大きな声で雑談する中、Oさんとの確認が終わったところで、プランが決定。
「イマイさん、終わりましたね。良かったらご飯食べに行きましょう!」とトミヤさん。
ありがとうございます。初めて会ってからまだ3回目くらいなのにとても隔たりなく感じられる人柄で、これならみんなに好かれるわけだよね、と後からこの時のことを思い出したのでした。
そして、連れて行ってもらったところが、陶芸作家さんのお店。
実は作陶されているアトリエと、カフェがつながっている素敵なところがあって、ぜひイマイさんを連れていきたいって思ってくださっていたのだそうです。
でもその時はちょうどカフェは定休日で、その中を無理やり電話するトミヤさん。(笑)
陶芸作家さんが電話に出られたようで、「家具屋さんと一緒に伺いたいんだけど、コウちゃん大丈夫かな。」と大きな声でお話し。助手席で何となくお話を察する私。
しばらくして、「イマイさん、大丈夫です。お昼はちょっと別のところになっちゃうけれど、ぜひそのお店に連れていきたいので。」とハリアーのハンドルをぐいと大きく切ります。格好いい!
私はどちらかというとお話しが苦手で、初めての人と何を話せばいいのだろう、と思いばかりが頭にいっぱいになってさらに押し黙ることが多いので、陶芸作家さんのようにクリエイターさんだと、よりどこか入り込みにくい人が多かったりするから、お会いしてもどうしたら良いだろう、と心もとなく思っておりました。
「着きました。」と言って、車を止めてくれたのは、ドンと構えた陶芸作家さんのアトリエというよりは、どこかひなびた趣のある平屋です。
引戸を開けて中に入ると、待っていてくださったのは、私くらいの大きな男の人。トミヤさんとあいさつを交わすとその姿同様に大きな声。二人とも大きな声。
「ああ、イマイさん。はじめまして、飯高幸作と申します。」と温かな笑顔。一言でいうそれはもう朗らかで同じ空気を持っているように思える人でした。
だからね、最初に思っていたよそよそしい気持ちはもうどこかに行ってしまっていて、トミヤさんとイイタカさんとで、とても楽しい時間を過ごさせてもらったのでした。
(このご縁で、この日にはお会いできなかった隣のカフェkoushaのミヤザキさんや御徒町の有名のWOODWORKさんともお知り合いになることができたのです。そのお話はまたいつかの夕べに。)
この時に、お話しして思ったのですが、家具や器、建築にしても作るのは人です。私たちはその作品にも大いに惹かれるのですが、一番強く惹かれるのはその人だと思うのです。その人の魅力が備わったものだから、その作品を愛することができる。その作品自体が強烈にその魅力を放っているものもたしかに存在しているのですが、その人やそのアトリエの手の跡や考えがつまったものだからこそ私たちはそれに触れたいと思ったり、そこに居たいと思うのです。
現に私は、イイタカさんと初めてお話しした途端に、その魅力に大いに惹かれてしまいました。一目ぼれですね。
作品の凛とした姿と、対照的な本人の温かさとその中にあるしっかりした展望。お話ししていると、物を作る立場としてとても勉強になるのです。
だからこのあと、アキコや娘たちも連れて、海老名(私の自宅がある町です。)から北越谷まで何度も通い、その作品を手に入れてはおいしいランチを頂くという小さな旅をすることになるのでした。
Oさんのお話から少しそれてしまいましたが、Oさんもまた大きな魅力があるお母様とお嬢さんです。さすがトミヤさんと仲が良いだけある。
美容院は、外観はすっきりとした印象なのですが、中に入るとご自身で仕上げたという塗り壁や木製の小物、ステンドグラスなどがきれいにちりばめられた気持ちの良いサロンになっているのでした。
ここなら気持ち良い時間が過ごせるな、とそういう印象です。
現に工事が終わった後にキッチンの写真を撮らせて頂くために、一度家族でお邪魔させて頂いたのですがその時に娘たちがこのサロンで髪を結ってもらって。
美容院で髪を結ってもらうという体験に二人ともはにかんで、うれしそうに気分良くしていたのでした。
経験や体験がその人を作る大きな要素になるんだなあとここでもうれしく思ったのでした。
なかなかキッチンのお話には辿り着きませんが、キッチンのほうはプランが確定したらいよいよ製作です。
今回は、ちょっと複雑に壁が出たり入ったりしている上に、板壁で入隅、出隅のところに大工さんが作った見切り材が打たれていて壁の凹凸が多いのです。
さらには天井はお嬢さんが仕上げた左官が表情よく(笑)凹凸が出ていて、ピッタリに施工するのがちょっと難しそう。
そしてさらにはキッチンパネルの代わりに、ステンレスを壁に貼ってほしいというご要望も。
さあ、頑張らなくては。
今回の工事はキッチン部分のみでしたので、私たちのできあがりのタイミングに合わせて、トミヤさんのお知り合いの大工さんが入ってくださって、各職方さんを段取りしてくださいます。
キッチン設置の当日の朝に、今の厨房のようなキッチンの撤去が行なわれ、配管を移動する工事が行われ、いよいよキッチンの設置です。
その日の午前中に解体が行なわれて、午後からはキッチンを設置する前に壁を仕上げておいた方が良いかと思い、先にキッチンパネルの代わりになるステンレスを壁に貼って行く段取りです。
既存の壁を一度すべて解体するのは大変なので、今の壁の上からステンレスを貼っていくのですが、元の壁に油膜が残っているところがあったりして、なかなかすんなりとは行ってくれず、さらには壁の直角も出ていない部分があるので、手間取ります・・。
予定時間をずれ込みましたが、どうにか仮接着ができました。
あとは明日までにきちんとついているように願うばかり。
そして翌日の搬入。今回は2階が台所でさらには複雑な形をしたキッチンを作ったので、屋内からの搬入は無理でして、バルコニーからどうにか揚げていきます。
上げるだけでなかなかの大仕事。
ひと息ついたら組み上げていきます。
通常私たちの家具は、工房で一度完成形に近づく形まで仮組みします。問題があればここで発見しておきたいからですが、このおかげで現場での作業時間も短縮できます。
そのようなわけで組み立てはスムーズに完了し、どうにか予定通りに工事完了。
そのあとに、水道屋さん、ガス屋さん、電気屋さんに入って頂いて配管工事を行ない、これですべて完了。
ひと安心です。
今回は古い戸建ての限られたスペースで、どのような動線で調理をするかをあれこれお母様と相談しながら考えていきましたが、きちんと使いやすいレイアウトにできましてひと安心。
また、何かあればいつでもお声掛け下さいね。
ちょっと遠いですが、このあたりはちょこちょこ訪れる機会が増えそうですので。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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扉・前板 | ナラ板目突板練り付け |
本体外側 | ナラ板目突板練り付け |
本体内側 | ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 | ウレタンクリア塗装ツヤ消し仕上げ |
ナラ板目材とステンレスバイブレーションのコの字型オーダーキッチン
価格:1,410,000円(制作費・塗装費、設備機器は別途)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は50,000円から、取付施工費は150,000円から)